“自宅で一人でできるリハビリ”を、オーダーメイドで提供
公開日:2025.06.10
取材・文 藤本幸授美
脳梗塞や脳出血を患い、麻痺がある人のリハビリを専門に行う、兵庫県西宮市の「動きのコツ研究所リハビリセンター」。
ここでは、“自宅で一人でできるリハビリ”をコンセプトに、「来所」、「テレビ電話」、「動画視聴リハビリサービス」の3つのコースで、一人一人の体の状態に合わせたオーダーメイドのリハビリを行っています。
また、YouTubeでは現在4230本のリハビリ動画を公開中。
要望に応じて、その中から数種類を選んで組み合わせたメニューも無料で提供しているそう。
代表の生野達也さんに、取り組みの概要や利用者からの声、今後の展望について聞きました。

今回インタビューした方:生野達也さん
「動きのコツ研究所リハビリセンター」代表・理学療法士
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目次
「動きのコツ研究所リハビリセンター」は、どのような経緯で開設されたのでしょうか。
私は、もともと理学療法士として病院に勤務し、自分が学んだリハビリ技術を専門家に広げることを使命と考えて、ブログやSNSでの発信も行っていました。
そんな中で痛感したのが、脳梗塞や脳出血を発症された方が、180日を超え、医療保険適用外になってからもリハビリを継続することの難しさです。
今でも忘れられないのが、いわゆる“リハビリ難民”だった、ある患者さんとの出会い。
まだ若く、回復への意欲も情報へのアプローチ力も高い、その患者さんのような方が、都会で必死に調べても有意義なリハビリに辿り着けない。
よくなる可能性は充分にあるのに、病院に勤務している自分には手を差し伸べることもできない……。
その事実に衝撃を受けたことをきっかけに、「180日を超えても諦めない方に、改善の機会を作りたい」と、保険外のリハビリ事業の立ち上げを考え、2013年に「動きのコツ研究所リハビリセンター」を開設。
現在は、理学療法士6名がリハビリに当たっています。
施設のコンセプトや特徴を教えてください。
コンセプトは、“自宅で一人でできるリハビリ”です。
一般的にリハビリというと、理学療法士や作業療法士が患者さんの手足を動かしたり、機械や電気も使いながら行ったりするものをイメージされるかもしれません。
でも、そんな“受け身のリハビリ”だと、専門家への依存が生まれてしまうケースも多いです。
私たちが目指すのは、“自宅で一人でできるリハビリ”を続けて、専門家から卒業していただくこと。
そのために、患者さんの状態に合わせた“動きのコツ”をお伝えすることを重視しています。
毎日24時間、生活の中でできることを意識することで、「自分自身でできる!」という自信をつけてほしい。
それが、患者さんのモチベーションや自己肯定感の向上にもつながるはずだと考えています。
具体的にはどのような形で施術や指導を行っているのでしょうか。
主なスタイルは、「来所(33,000円/120分)」と「テレビ電話(16,500円/60分)」です。
どちらも無料相談を受けていただいた上で、カウンセリングでメニューを決定。
理学療法士が、マンツーマンで“動きのコツ”を指導します。
その間に、Before/Afterの体の変化やリハビリの注意点を撮影する時間を設け、それを動画にまとめて毎回プレゼント。
リハビリ成果を高めるために患者さんには、目標を把握すること、リハビリ日記をつけること、動画を見て復習すること、を日課にしてほしいとお伝えしています。
私たちは、最初の無料相談の際、例えば「仕事を始めたい」「海外旅行をしたい」などの願望をお聞きするんです。
それをもとに「夢への宿題シート」を作成し、廊下を歩く、ベッドから立ち上がるなど、難易度別に具体的な動きの目標を設定。
リハビリのたびに見直し、必要に応じて調整を加えながら、「何のために、何をするのか」を意識していただくようにしています。
自宅では、リハビリ日記をつけたり動画で復習したりすることで、成功と失敗の原因を明らかに。
毎日の継続をサポートし、“自宅で一人でできるリハビリ”の文化を作ることができればと考えています。
現時点では、7割の方が「テレビ電話」コース、3割の方が「来所」コースを選ばれています。
また、新たに「ひとりdeリハ(月額1,980円)」という、動画視聴リハビリサービスのコースもスタート。
直接の指導はなく動画を見てリハビリに取り組んでいただくサブスクで、お試しいただきやすい価格に設定しています。
YouTubeでも、オリジナルのリハビリ動画を多数公開されていますね。動画はいつ頃からどのように発信されているのでしょうか。
もともとは、一人で立ち上げた保険外のリハビリ事業について多くの方に知っていただきたいと、2014年4月にYouTubeを始めたんです。
数か月続けるうちに、「やってみました!」「体に変化がありました!」という声をいただけたのが励みになりましたね。
切り口や組み合わせを変えながら発信を続け、動画は4230本になりました。
それが思いがけず役立ったのが、コロナ禍の頃。
緊急事態宣言が発令されて、リハビリ施設に行けない、セラピストに会えない、という患者さんの声を受け、電話で体の状態を聞いて、おすすめの動画を3本選んでお伝えする、という無料支援を行ったんです。
2年半で248件の相談をいただき、長く続けてきた動画で社会貢献することができました。
その後、能登半島地震の後にも同様のサービスを提供。
患者さんご本人だけでなく、ご家族にも「立ち上がりの練習をするだけでもリハビリになる」など、その状況下でできることをお伝えし、「安心できて気持ちが落ち着いた」といった反響をいただきました。
現在も、要望があれば随時対応しています。
これまで施術や指導をしてきた中で、特に印象深いエピソードがあれば教えてください。
麻痺があり、13年リハビリを続けてきたけれどうまくいかない、と来所した女性がいらっしゃいました。
目標を聞くと、「草履を履くこと」と。
発症時は小さかったお子さんが結婚する時に、着物を着て草履を履いてきちんと送り出すのが夢、とのことだったんです。
それまでは家族や医療関係者に話しても、取り合ってもらえなかったり「靴でもいいのでは」と言われたりしてきたそうなんですが、「じゃあ、頑張りましょう!」と二人三脚でリハビリ開始。
自宅でもコツコツ努力され、歩行がスムーズになり、スリッパが履けるようになり……最終的には見事、着物と草履でお子さんの結婚式に参列されました。
長年積み上げたものが花開いた瞬間、心から感動しましたし、その方から「一緒に喜んでもらえてうれしい」と感謝の言葉をいただけたのもうれしかったですね。
同時に、患者さんご本人の目標や願望に寄り添い、“自宅で一人でできるリハビリ”をすることで、人生を切り開く可能性を手にしてもらえるのだ、ということを改めて実感できました。
現在の課題と今後の展望については、どのように考えられていますか。
保険外、マンツーマンでリハビリを行うと、どうしても費用が高くなってしまいます。
リハビリを必要としていても、経済面で続けることが難しい、という人も多いのが現状。
その問題をクリアすることが、1つ目の課題だと思っています。
打開策として打ち出した、動画視聴リハビリサービスについても、もっと周知を図っていきたいですね。
2つ目は、教育。
増え続けているリハビリのニーズに対応できるよう、スタッフ教育にも力を入れていかなくてはいけません。
今年、新たに予防通所介護施設「動きのコツBASE」をオープンしたのですが、ここでは夕方以降に、スタッフと向き合う教育の時間を設けています。
そして3つ目は、病院との連携。
スムーズな連携のためには、病院と保険外の施設、双方にメリットのある形が必要です。
そこで、「全国在宅リハビリテーションを考える会」の理事を務めながら、保険外のガイドライン作りを進めているところです。
今後の展望については、まずは国内のリハビリ支援をより充実させたいですね。
今は、孤独になりがちな患者さんへの対応のため、ピアカウンセリングや仲間づくり、復職支援などのサービスも始めています。
これまでに経験してきた、SNSやYouTubeでの発信、オンラインでのアドバイスなどを通して、私たちが考える“自宅で一人でできるリハビリ”は、距離を越えて伝えられるものだと確信を持つことができました。
これからは、国内のみならず海外にも、“動きのコツ”を届けていけたらと考えています。
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